今日は何観て帰ろっか?

今井(いまい)/天野(あまの) ルームシェアしている男ふたりが仕事帰りに一緒に観た映画の感想をダラダラと語ります

2019年の日本には甘すぎる政治ファンタジー/『記憶にございません!』感想

確かに笑える。でも「」が足りない。

 

冒頭「この作品はフィクションであり、実在の人物とは関係ありません。でももし似通っていたとしたらそれはたまたまです」といった文言ではじまる。

 

しかし「さぁさぁ今から日本の政治を風刺しまっせ」的なそぶりをしながら、そのストーリーはひたすら甘く優しい希望に満ちており、その毒気のなさに私は正直がっかりしてしまった。

 

映画で描かれる「日本」とはいかなるものか。

 

「憲政史上最悪の総理大臣」黒田は暴言セクハラなんのその、傲岸不遜丸出しの男。長く続いた政権与党の実権は政界での生き残りしか考えていない官房長官が握っている。第二の国会議事堂(スーパー銭湯つき。ちょっと良いなと思ってしまった)を建てる無駄なハコモノ建設計画が進行している。受注先は地元の同級生がやっている土建屋だ。ダメ政治の役満である。

 

野党・困民党の党首・山西は白いスーツがまぶしい美熟女(吉田羊が演じておりキュートきわまりない)。凛と背筋を伸ばし、上品だが厳しい言葉で首相に追求する姿はいかにもステレオタイプ的「リベラル」女性議員である(蓮舫議員、辻元清美議員、福島瑞穂議員あたりを下敷きにしたキャラ造形であることは自明であろう)。

 

家庭の方もさえない。妻はイケメン秘書官にぞっこん、息子は黒田を見下している。ついでにお抱えの料理人さんにも完全になめられている。

 

国民の支持率は堂々の2.3%、地上波の番組でキャスターは堂々と黒田をディスり、小バカにする。消費増税を目前にして国民の怒りはいまにも爆発しそうだ。

 

こんな状況の中、石をぶつけられて記憶喪失になった結果、何故かお人よしの善人に性格が裏返った黒田が正直さ・謙虚さ・素直さ(要は人徳だ)で周りの信用を集め、アメリカ大統領(日系人。加えて日本語がわかるご都合設定)との会談も成功させ、妻と息子の尊敬も取り戻してめでたくハッピーエンド。一応支持率は低く、「現実」は甘くないよね的な目配せも忘れない。

 

…とまあ、ふたを開けてみれば非常に口当たりの良い、「笑えて泣けるコメディ映画」でしかないじゃんね、というのが正直なところだった。

 

だって「現実」には国民が首相にブチ切れていないのだから。

 

現在の内閣の支持率は48%(出典:NHK選挙WEB・2019年9月9日更新)。

言わずもがなだが、現政権は黒田政権に負けず劣らず問題山積みであり、消費増税目前という状況がまさにシンクロしていたりするのだが、ボケ気味のご長寿政権が国民のほぼ半数に支持されてやりたいほうだいなのが「本当の現実」。

怒れる民衆も批判的なメディアもいないことはないけれど、とてもその声は弱々しい。

2019年において、「国民が怒り、メディアの権力監視が機能している日本」は、あまりに楽観的すぎで現実離れしているのだ。悲しいけれど、この作品は「今」を切り取ることに失敗している。

 

さらに野党の党首はなんと黒田と肉体関係にあり、見返りに与党との合併を要求している。これは現実の野党の無力っぷりを風刺している…わけでもないと思う(困民党以外の野党は出ないし)。というか記憶をなくした黒川に対して、野党のリーダーに「粗野で権力志向のあなたが好きだった」ってセリフを言わせるのは本当にどうかと思う。際どい格好で「がっぺい♡がっぺい♡」と迫る吉田羊はエロいけど!エロいけどさぁ!!!)女性と野党とリベラルを完全になめくさった設定である。無自覚にやっているならなおさら悪質。

 

コメディとしては優秀である。役者の魅力を120%完璧に引き出している。

吉田羊、石田ゆり子小池栄子斉藤由貴とお姉さま方は皆綺麗でキュート。中井貴一は記憶をなくす前/後の演じ分けが良い。ダブルのスーツに身を包んだディーンフジオカはあまりに美しく男の私でも悶絶寸前だった。田中圭も相変わらず犬系なかわいらしさが炸裂している。老獪な草刈正雄、補導される割には七三分けで第一ボタンが常に閉まっている濱田龍臣、終始情けないROLLY、「なぜここで?」な川平慈英などなど、俳優のバラエティと小ボケの豊かさは枚挙にいとまがない。はっきりいって面白すぎる。

 

しかし、それだけなのだ。この作品からは「怒り」も「諦め」も「悲しみ」も見えてこない。今の日本で、政治が心地良いファンタジーとして消費されてしまうのは、「現実」の矮小化に繋がってしまうのではないか。

 

権力の弾圧の恐怖を描いた『新聞記者』は少々生硬な向きもあったし、そもそもコメディでもないのだが、現実と強くリンクしていた。「2019年に作られる/観る意味」があった。でも『記憶にございません!』には?

 

かなり的外れなことを言っている気もするし、何よりこの作品を好きな人たちに冷や水を浴びせるようで申し訳ない気持ちもある。

でも、私たちの前には、映画館を一歩出れば厳しく醜い「本当の現実」が横たわっていることを忘れてはならないと思うのだ。